Natural

『目の前を走っていた暴走族を追い越すため、スピードを出して若いタクシー運転手がセンターラインを超えたところ、１台のバイクも同じ方向に来てそれで衝突。前から来ていたパトカーもタクシーに接触したんだよ。そしてそのまま横転。パトカーの人は無事だったが、暴走族と毅たちは・・』

そう言って言葉に詰まった。

”あのとき、暴走族さえいなければ・・あの音がしたとき止まっていたら最後に会えたかもしれない。いや、暴走族さえこの世にいなければ・・”

美紗子は言い表しようのない怒りに包まれた。

美紗子は暴走族というものは兄も思い出すし、この世で１番嫌いだった。

美『毅くんはそのとき・・』

『即死だったそうだよ。助手席に乗っててもろにバイクがあたってたそうだ。』

”毅くん、痛かっただろうね・・どうして毅くんなの・・？他にいなかったの？死ぬ運命の人は・・”

そう思っていた。

美『すみません、ありがとうございました。明日のお葬式は何時ですか？』

『１４時よ。』

毅の母親が答えた。

美紗子は席を立ち、２人に深々とお辞儀をして

『明日は来ます。お邪魔しました。携帯ありがとうございました。りんごをよろしくお願いします。すみません。』

そう言って玄関に向かった。

靴を履いていると後ろから

『美紗子ちゃん・・だったわよね？お墓とか決まったら連絡するわ。さっき毅の携帯から美紗子ちゃんの連絡先を書きとめたから。勝手にごめんね。』

泣きはらしたような目をして母親が言った。

美『ありがとうございます。お邪魔しました。』

そう言って家を出た。

りんごが美紗子を見てしっぽを振っていた。

だが美紗子は最後になるかもしれないというのにりんごを触ることができなかった。

これ以上ここにいると美紗子は押し潰れそうなくらい心が痛かった。

”思い出が多すぎるよ・・”