バニラエッセンス
「理由は後で言うけど、ほんとにほんとなんだ。だから早くあそこへ逃げよう」
男性は遠くにある喫茶店を指差した。
「……喫茶店?」
「あそこじゃなきゃ駄目だ」
男性は焦った様子で私の右腕を掴んだ。
寒い日、セーター越しに暖かさが伝わった。
「行こう」
生まれて初めて、私は自分を心配してくれる人に出会った。
その人はしきりに時計を見ながら、大丈夫、大丈夫と繰り返している。
その横顔を、
私は………
信頼したいと思った。