SSシリーズ
次の日、烈は私を迎えには、来なかった。
「……、」
当たり前のなくなることの怖さを知った。どきり、とするというより、ひやりとした。
「烈、」
かわりにメールが届いていた。
ごめん、今日一緒に帰れない。
ぱちりとケータイを閉じ、カーディガンのポケットにしまう。
「……帰ろ」
ぽそり、ひとり呟いてマフラーを巻いた。
鞄こんな、重かったっけ、
家、こんな遠かった?
あーもう、
烈
れつ、
れつ、
烈に、会いたい。
焦りにも似た何かが、心の中を渦巻いて、
ーー烈くん!
は、っと、顔をあげれば、烈と女の子が、二人でいるところを、見つけてしまった。
ーーごめんね、つきあってもらっちゃって!
なんでだろう、周りはうるさいはずなのに。
ーーありがとう、またね!
なんで、こんなに、はっきり聞こえるの。
わたしはそこに立ち尽くしたまま、二人が別れて帰っていくのをしばらく呆然と眺めていた。
「ハジメちゃん、帰ろ?」
金曜日。烈は再び迎えにきた。
「……うん」
謝るタイミングは逃したまま。
すと、すと、重いものばかりが積もっていくのがわかった。
ああ、私、嫌なやつ、だ。
じわり、一歩先を歩く烈の後ろ姿が歪んでいく。
「…っつ、、」
「えっ?!」
「……、」
「えっ?えっ?どうしたの?え?ハジメちゃん!?泣かないで泣かないで、え、どっか痛い?どうしたの、なんで、泣いてんの、」
くい、と烈の学ランを引っ張れば、慌てふためく烈を見てまた涙がとまらなくなった。
「…れ、つーの、ばかー」
「えっ、俺?!」
それから。
気の済むまで烈の学ランを涙と鼻水でぐっしょりにしてやった私。
「………、」
「あ、泣き止んだ」
どしたの?と私をあやす烈に。張り手を飛ばすのは数秒後。
昨日の誤解が解けるのはその数分後。
結局。
「……はいこれあげる」
「……、な、」
「ハジメちゃんのだよ?」
「…きれい、」
な、ピンキーリングだった。
「……ごめんなさい」
「あーあ、制服どーしよ」
「…ごめんなさい」
「許します」
烈くんのハジメちゃん日記、これにて終了ー。