光の子
母がキッチンから疲れた顔を出した。
肌の色はくすみ、目は落ち窪んでいる。ここ数ヶ月で母は老け込んでしまった。
「おかえり。お腹、空いたでしょ。ごはんすぐ用意するわね」
母が矢楚へそう声をかけてキッチンに戻ると、姉の美鈴(みすず)が白々しく言った。
「矢楚、ちょうどいいとこに帰ってきた。
亜希ちゃんをバス停まで送ってあげてよ」
矢楚は、柴本亜希を視界に入れないようにしながら、そっけなく答えた。
「俺、くたくたでもう動けないよ。バス停なんて、すぐそこだろ」
実際、矢楚の家は街灯の明るい分譲住宅地にあり、バス停もすぐ近い。
「なによ、使えないなぁ、うちの弟は」
ぼやく美鈴に合わせて、ふふふと柴本亜希が笑った。