光の子
スローモーションのようだった。
エナメルの黒いストラップシューズが、てかてかしながら歩みを刻み、
ふわり、ふわりと、髪が夜風に舞う。
ずいぶん、落ち着いた足取りだった。
そこには、高まる恋の鼓動など感じられなかったのに。
フランス人形みたいなその子は、沙与の予想を裏切り、まっすぐに、モスグリーンのスポーツカーに向かっていた。
「うそ、あの子なの?」
粛々(しゅくしゅく)と父の浮気現場を押さえにかかっていた沙与も、驚愕していた。