光の子
二人の輪郭が離れると、ブレーキランプが光り、車は発進する様子だった。
「追わなきゃ。写真、撮れなかった」
沙与は気丈にも、このショッキングな事態から奮い立ったようだ。
しかし、高槻は車のエンジンをかけなかった。
「暁人先輩?」
自分を呼んだ沙与に、高槻は冷静に言った。
「もう写真は、撮らないほうがいいと思う。
沙与、相手が中学生なら。もう、裁判には持ち込めないよ。
これはもう、そんなレベルのことじゃないんだ」
沙与は目を見開き、震える声で、高槻に聞いた。
「お父さんがしてることは。犯罪、なの?」
矢楚も、頭を殴られたような衝撃を感じた。
「くわしくは分からないけど…。
もし、あの子と性的関係があるなんてことになったら。
たぶん、青少年育成条令あたりに、ひっかかると思うよ」
沙与は、しばらく高槻を見つめていた。
ただ不貞行為を立証しようと撮った写真が、
社会的道義に触れる父の罪を、明らかにしてしまう。
二人は視線で何を語っていたのだろう。
後ろにいた矢楚は、ただ息を呑んでいた。
やがて、沙与は矢楚を見た。その顔には諦めが浮かんでいた。
お互い、何も言わなかった。言える言葉が何一つ、浮かばなかった。
沙与は、前を向き、静かに告げた。
「帰ろう」
いつのまにか、父の車は去っていた。