光の子
白木蓮
このベンチに座ったのは、何年ぶりだろうか。
父を尾行した夜に沙与と待ち合わせた近所の公園に、矢楚はまた来ていた。
あれから三日が経っていた。
住宅メーカーが建て売りで販売したこの住宅地に、矢楚の一家は九年前に越してきた。
初めて母に手を引かれてこの公園に来たとき、白木蓮がまぶしく咲き誇っていた。
母は、教えてくれた。
『矢楚、真っ白い花が見事に咲いてるでしょ。あれは、白木蓮というのよ。
恐竜がいた頃から、ほとんど今と変わらない姿で、この地球に咲いていたんですって』
白木蓮の輝くような花姿と、真新しいまち。
ひと月後に小学生になる矢楚には、すべてが始まりの息吹をはらんで、まぶしいくらいだった。