光の子



母との思い出がこの公園に息づいていたことを、矢楚はこの瞬間まで忘れていた。


この場所で、会うべき人じゃなかったんだ。

約束の時間はもうすぐだから、今さら遅いけど。


ベンチに座って、傍らに立つ白木蓮を見上げた。

蕾はまだ硬い。

美しく花咲く頃でなかったことが、せめてもの救いだ。


その時、矢楚の視界に深い緑色が入りこんだ。


ベンチの、ほぼ真横の方角にある公園の入り口に、柴本亜希が姿を現わした。




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