光の子



矢楚は立ち上がって、数歩前に進み、柴本亜希がベンチに近づいてくるのを待った。


視線を少し伏せて歩いてくるので、表情が読みにくい。


目の前に柴本亜希が来ると、矢楚は礼儀正しく頭を下げた。


「寒い中、ありがとう」


返事は、なかった。

矢楚が顔を上げると、柴本亜希はするりとベンチに座った。


まるで矢楚の視線を避けるように。


矢楚は、隣に座るのも躊躇(ためら)われたので、そのまま向かいに立つことにした。



< 234 / 524 >

この作品をシェア

pagetop