光の子
あの日、美しい緑の芝の広場で、矢楚とわずかな時間を過ごしてから、一ヵ月ほどが経った。
広香の日々は、木綿子と過ごす穏やかな学校生活と、家庭の中で大小の嫌がらせや悪意に晒される辛い時間とを、振り子のように揺られて過ぎて行った。
その振り幅に耐えられなくなり、どうしてもまっすぐ家路に着けない日もあった。
そんなときには、広香は藤川矢楚と出会ったあの広場に行った。
矢楚はたいてい、そこにいた。
あの日言っていたように、そこで自主練をするのを日課にしているようだった。
それは、放課後からクラブへ向かうまでの小一時間ほどだったので、
広香は矢楚を見かけたとしても、短い会話を交わしたり、遠くから練習する姿を見るぐらいしかできなかった。
でもそれで、十分だった。
広香は確かに、広場でのささやかなひとときに、救われたのだった。