光の子
「おい!」
少し離れたところから、よく通る声が響いた。
「矢楚」
男子の一人が呟いて、広香は顔を上げた。
自分を取り囲む男子の足の間から、レモン色のポロを着た藤川矢楚が見えた。
矢楚は人差し指で、上を指し示している。
「山崎、丸見えだよ」
そこにいた皆が一斉に見上げた。
校舎の三階の教室、横に並んだ三つ分のベランダから、それぞれ数人の生徒が身を乗り出してこちらを覗いていた。
ああ、視聴覚教室だ。そういえば、矢楚のいる六の三が掃除当番だっけ。
広香はそう思い出して、興奮が急激に醒めていった。
見られていた。
「これ以上やると、まずいと思うよ。分かるだろ」
矢楚は、さっき山崎と呼び掛けた主犯格に穏やかに言った。
そうしてさっと輪のなかに入ってくる。
レモン色のポロを着た矢楚が加わっただけで、
男子たちのどす暗い雰囲気が、一瞬で変わった気がした。