光の子
矢楚は低い声で、しかし穏やかに男子の一人に言った。
「オレが連れてくよ」
矢楚は広香の腕を掴んで立たせた。
「そんなやつ、俺らどうでもいいし。
生意気な口きくから、殴っただけ」
矢楚が責めるでもなく淡々とした様子だからか、男子たちは気が抜けたような顔で、ぞろぞろと引き上げていった。
広香は最初に蹴られた腹部が、じんと痛んでいるのに気付いた。
矢楚はしゃがむと、広香の膝小僧を眺めた。
「砂がめり込んでる。消毒しとこうよ」
よし。
矢楚はそう言うと、広香の竹ぼうきを拾い上げて、うろたえて立っていた広香の班の子に渡した。
「保健室に連れていくから、うちの担任と、そっちの担任に言っといてよ」
「あ、じゃあ、私が」
黙って見ていた罪滅ぼしか、クラスメイトは広香を保健室に連れていく気になったようだ。
矢楚はそんな彼女に目配せをして、はじめに囲まれた不思議ちゃんを示した。
不思議ちゃんは放心状態で立っていた。ひどい内股になっている。
誰かが彼女についていてあげたほうがいいのは、一目瞭然だった。
あ、と広香のクラスメイトは声を漏らした。
ね、と矢楚は眉を少し上げ、それで分担は決まりだった。
矢楚は広香に、行こっか、と声をかけて先に歩きだした。
それは風に舞い上がるたんぽぽの綿毛のように、軽やかな口調だった。
そのトーンが、バツの悪い自分たちのためだというのを感じて、
広香は、矢楚ってリーダーが身についている、と思った。