光の子
矢楚は、温くなったスポーツドリンクを開けて一気に飲み干し、
ランニング用のアームポーチから携帯を取り出した。
表示は、七時十六分。
広香は七時四十分ごろ家を出る。さっきまでの葛藤は、ここに来て消え去ってしまう。
躊躇なく、リダイアルから番号を呼び出しコールした。
渇いた喉を潤すのにも似た、生々しく抗(あらが)うことのできない欲求。
理性は完全に停止していた。
すぐに広香は出た。
『はい、月島です』
胸の底に透き通った水が流れ込む。
死んでいた何かが蘇る。
ただ目を閉じて浸っていると、もしもし、と広香が呼び掛けた。
『矢楚?』
心臓が跳ね上がった。電話を落としそうになる。
『呼吸でね、わかるの。矢楚だよね』
慌てて、携帯のマイクの辺りを握る。
何度となく、電話で話していた頃があった。
ばかだな、オレは。