光の子
ためらい月
梅雨明けが宣言されて一週間ほどが経った。
初夏の日差しを身体中に浴びて、広香は工房の前庭にいた。
木材で作った低い長椅子のような台へ、絵付けを終えた陶の皿を並べていた。
釜で焼く前に天日で水分を飛ばすためだ。
そこへ、師匠の娘の響子(きょうこ)がやってきた。
ハスキーボイスが響く。
「今日はもうあがっていいってさ、師匠が」
広香は太陽を背に立つ響子を、目を細めて見上げた。
濃い青の、エスニック調のタンクトップが響子の焼けた肌によく似合っている。
「響子さん、時差ボケはもう大丈夫ですか?」
「頭痛はもういいんだけどさ、胃腸時間が、まだメキシコなの。
もうお腹空いちゃった」
響子は、メキシコに工房を構える陶工だ。
名工である父親に日本の伝統技術をたたき込まれた二十代を終え、
三十代になって、響子は新天地を求めて、単身メキシコに渡った。
日本とメキシコの陶芸を融合させた斬新な作風は、日本で評価を得つつあり、
年に一度、個展を開くため日本に一時帰国する。
工房に隣接する実家に、響子は二日前に戻ったばかりだった。