光の子
「何してんの、もうあがりな」
手を休めない広香を、響子はしゃがみこんで覗き込む。
「でも、せっかくのお天気が」
もうすぐ朝の十時、急がなければ、陽当たりの一番いい時間を逃してしまう。
しかし響子は呆れた様子で言った。
「梅雨もきっちり明けたんだし、今週はピーカンでしょ、心配しなさんな」
「響子さん。ピーカンって久しぶりに聞きました」
「え、死語なの、これも。私が知ってる日本語どんどん死んでくわ。
八年でそんなに変るもの?」
ただ微笑んで手を動かす広香から、響子は皿を取り上げた。
「明日の受賞式に向けて、女磨きしておいで。
美容室行って、服でも買いなさい。
はい、師匠から祝いだってさ」
響子はショートパンツの後ろポケットから、封筒を取り出して、広香に渡した。
寸志、と書かれている。
「響子さんが、取り計らってくださったんですね」
六十代も後半の師匠に、そんな細やかな気が回るはずがない。