光の子
mi luna
真っ暗な道を、タクシーは走る。
工房は、山の入り口にある。
やがて工房の敷地に入り、広香の師匠が暮らす母屋から漏れる明かりが車体を照らした。
タクシーを降りて、ショップの紙袋を肩に掛け、広香は離れにむかった。
「おっ帰り!」
薄暗い工房のほうから、呼び掛けられた。
工房入り口にビーチチェアを置き、響子が晩酌していた。
広香はすぐに足を向けた。
蚊取り線香の匂いがする。
「似合うよ、ショート」
片足をチェアに上げて、響子は笑った。
「ありがとうございます」
「衣装も揃えたかい」
「はい、おかげさまで、靴まで」
「それは、よかった」
飲む?と、響子はチェアの足元に置かれた小さなクーラーボックスを叩いた。
「私、甘いやつしか呑めません」
「残念、ビールだけだ〜」
「響子さん」
「ん?」
「私、あの話、お受けします。
響子さんとメキシコに行きます」