光の子
「さて。どなたから、ですかね」
「……恋人です。イタリアにいるんです」
「そういう人がいて、メキシコ来るってか?」
「私が一人前の陶工になるまで、会わない約束なんです」
響子が、ぶっ、とビールを吹いた。
「広香、何を言ってる?」
響子は首にかけていたタオルで口を拭って呆れた顔をする。
「吹くほど変な話ですか」
「そうだね、奇妙だね。
一人前って、あんた。
こんな果てのない仕事、一人前になるの待ってたら、ババアになるよ。
技に極みって、ないもんだしょ」
だしょ、って、また死語だ。
そう思ったけれど広香は口にするのをやめた。
「彼、一流なんです。
世界を相手に戦うくらいの。
半人前の私が、近付けないくらい」
響子は、ぺこぺこと音を立てて、呑み終えた缶を潰した。
「今やっとわかった。
オヤジ殿が、広香をしばらく預かれって私に言った意味」