光の子




「師匠が、私をメキシコに誘うよう言ったんですか?」


赤く染めた髪をぐしゃぐしゃと撫でながら、響子はゆっくりと数回頷いた。



「広香が行きたがるなら、見聞を広げるために、メキシコで修業させてみたらどうかってさ。

私も、新しく工房構えて、使える相棒欲しかったしね。

あ〜、師匠は、広香がくそ真面目だから、奔放な娘に託す気になったわけか」



「くそ真面目でしょうか」


「あと、見栄っ張りだ」



響子は眉をあげて、すました顔をすると、新しい缶を取り出す。



「私はもっと素敵な女になるわって、寄ってくるオトコを邪魔扱いか、広香。

ま、私も、二十代頭の頃は、仕事に関してハングリーで可愛げなかったけどさぁ。

デートぐらいしてたよ」



でも響子さん。
気軽にデートできる相手じゃないです。

相手はイタリアにいて。

日本でもスポーツドリンクと、車と、整髪料のテレビCMに出るような人なんです。

そんなこと、言えやしないけど。





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