光の子
「さっき、結婚してください、のタイミングで出すつもりだったんだ」
わざと拗ねたような口調で続ける。
「広香が、だめよ、って言うから。
オレ、もう……。
すっかり、渡しそびれちゃった」
正直だね。
広香がそう言うと、まあね、と小さいキスをくれた。
「さぁ、入りますように」
矢楚は祈るように指輪にくちづけてから、広香の左手をとった。
あ、難しい。呟きながらも指輪は薬指に無事収まった。
ピンクゴールドのリングの上に、一粒のダイヤモンド。
こんな薄暗い場所でも、光を集めて静かに輝いていた。
「きれい。私には無縁のものだと思ってた。ありがとう」
すごく似合ってるよ。
矢楚はそう言って、包み込むようにそっと抱き締めた。
広香が矢楚を見つめてくちびるをかすかに開くと、それはキスの合図になる。
矢楚は誓いと情熱を注ぐような、熱いくちづけをくれた。
白いワンピースは月を思わせ、
黒いスーツは、夜の帳(とばり)のようだ。
いまはもう、行く先を見つけた二人の頭上で、
道を示す灯台のように金星が煌めいていた。