光の子
広香の母は、精神的なバランスを崩しやすいのか、柊太がお腹にいる前から、心療内科に通院していた。
矢楚がそれを知ったのは、去年、広香と同じクラスになって、それまで以上に仲が良くなってからだ。
産後のうつは、周りのサポートなしには育児をこなすことができない。
母の負担を減らすため、広香は入っていた美術部を辞め、柊太の面倒をみている。
「矢楚は?」
「オレは……」
広香に触りたくて、毎日、変になりそうだよ。 もし、オレがそう言ったら、広香はなんて言う?
「膝、けっこう、深刻なの?」
「まぁ、三ヵ月無理しなければ、後遺症の心配もあんまり無いって言われた」
広香は心の底から安堵した様子で、「よかった」と吐息混じりに言った。
矢楚はその声を聞いたとたん、胸の真ん中あたりに小さい痛みを覚える。
「U15の大会に出れないのは、かなりショックだったけどね。まあ、気持ちはもう切り替えた。
早くケガから復帰して、自分のポジション取り返すよ」