光の子
―四年前―
◇小六 五月
「佐和子さん、ちょっと来ていただける?」
新しい祖母の冷たくどっしりした声が、広香の母を呼びつける。
自室で朝の支度をしていた広香は、そっと部屋を出て、声のした風呂の脱衣所へと向かった。
洗濯機の前、小さく肩をすぼめた母の背中と、汚そうに広香の下着を指でつまんだ、新しい祖母が見える。
「広香ちゃんの洗濯物は、家族のとは分けて洗ってちょうだいって言ってるでしょ」
祖母は忌々しそうに言って、広香の下着を母の足元へ放った。
盗み見している広香の胸に、冷たい水がじわりと広がる。疎(うと)まれている、その現実がシミのように広がる。
広香は思った。
いつか、私はこの家で息も出来なくなるだろう。
初めて会った日。『広香ちゃんの、おばぁちゃんになってもいいかしら』
そう優しく言ったのは、あの人だったけれど。
広香の母親は、押し殺した声で答えた。
「すいません、これからは、気を付けますから」
「もう何度目かしらね、どうかしら、広香ちゃんも六年生なんだから、自分で洗濯させるよう躾けたら?」
広香はそっとその場を離れた。
部屋へ戻る途中、ベランダの片隅に干されたままになっている体操着をとりこむ。
しっとりと、露が落ちていた。それを手提げに入れ、広香は無言で家を出た。
この家に来れば、新しい家族ができると思っていた。でも実際は、この家にとって私は『新しい嫁の連れ子』に過ぎない。
私だけ、他人のままだ。