光の子
階段を上がる広香たちの話し声が、聞こえたのだろうか。
広香がアパートのドアに手をかけると、
待ちかねたように母が内側から扉を開けた。
普段家にいるときより、
少しだけ小綺麗な格好で、薄く化粧をしていた。
今夜の母は、広香が見ても美しかった。
「おかえり」
母は、健人の顔を嬉しそうに見上げた。
十九歳で広香を産んだ母は、今年三十四になる。
健人は三十二歳と言っていたが、母のほうが若く見えた。
健人もまた、広香の母と一緒で、若くして結婚をした。
今の奥さんと結婚したとき、健人はまだ十八歳だったという。そして、相手は十五も年上だそうだ。
健人は、広香の母の肩を抱きよせ、ただいま、遅くなってごめんね、とささやいた。
それだけで、母の目には嬉し涙が光るのだった。
「よーし、柊太、風呂に入れてあげよう!」
柊太の服を脱がせると、さっと横抱きにして、
飛行機だぞーっとにぎやかに風呂場へ行った。
柊太は、風呂に入るのを極度に嫌う。毎日入浴させるのも一苦労だ。
それを知っている健人は、家に来たら、必ず柊太を風呂に入れてくれた。