【長編】FOUR SEASONS
それが優華の唇だと気付くまで暫し時間がかかったのは、理性を引き寄せるほうに全神経を向けていたからかもしれない。

「ゆ……ぅ…。」

「ごめんね孝宏。こんな傷負わせてしまって。ごめんね。」

「…おまえのせいじゃない。俺はこの傷を誇りに思うよ。世界で一番大切な存在を護る事が出来た。俺はおまえを護って得たこの傷を生涯の宝だと思う。」

「孝宏…。ありがとう。」

ぎゅうっと背中から抱きしめてくる優華の愛情を俺の想いで包むように、胸に回された小さな手をそっと包み込む。

「優華だって俺のせいで傷を負ったじゃないか。」

思い出すと胸が痛くなるあの日の光景。

髪をバサバサに切られ、全身傷だらけになった優華の胸元にあった一生消えない火傷の痕。

あまりに痛々しいあの日の光景が蘇る。

あれから一度もあの痕を見た事がなかった。

どこからでも見える痕ではないのだから当たり前なのだが、今更ながらどうなったのかと不安になった。

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