【長編】FOUR SEASONS
その行動は無意識だったと思う。

少なくとも俺は意識してやったつもりはなかった。

俺の胸に回された手を取り振り返ると、左手で腰を引き寄せ右手を胸元の傷に滑らせていた。

「優華…見せて…。」

優華は抵抗することなく俺にされるがまま痕を見せてくれた。

薄くなっていたがやはりしっかり残っている。

「優華のこんな綺麗な肌に一生残る痕がついた。護れなくてゴメンな。」

「…この痕は一生残る辛い思い出だけど、この時孝宏があたしを助けてくれたから、あたしはあなたを好きになったの。
たかちゃんじゃなく沖崎孝宏に恋をしたのは、あの瞬間(とき)からだったから…。
この痕はあたしにとって大切な思い出の一つなの。あなたのその傷が宝物だと言うように、あたしにとってもこの痕は宝物なのよ。」

優華の言葉を耳に捕らえながらそっと痕に唇を寄せると、甘い香りが鼻腔を擽り俺を狂わせそうになる。

理性で辛うじて繋ぎ止めている、今にも暴走しそうな欲望を、切ないまでの愛しさで押さえ込み何とか閉じ込める。

それから粉々になりそうな理性を掻き集めると、強靭な精神力でなんとか優華を無理やり引き剥がす事に成功した。

だめだ、いい加減限界。俺…心臓発作起こすぞ絶対に。

頼むから早く正気に戻るか、このまま眠るかしてくれよ。

< 287 / 323 >

この作品をシェア

pagetop