【長編】FOUR SEASONS
フラッシュバックする記憶。


優華が誰かに連れて行かれる恐怖。


あの事件の時の無力感が襲ってくる。


背中を冷たい汗が伝う不快な感覚が全身を包んでいく。

この人混みで優華を見失ったら探すのは至難の業だろう。

今度はアナウンスなんかでは助けられない。

必死に人の流れを掻き分け優華の後を追う。


――ここで優華に何かあったら俺は一生自分を許せない。


男達は嫌がる優華の手を離そうとしない。

むしろグイグイ人の流れとは反対の方向へと引っ張っていく。

「ヤダ―――!離してっ。あなたなんて知らない。あたしは先輩と来ているのよ。放してってば!!」

必死に抵抗している優華の声が聞こえる。

「いいじゃないか。俺たちのほうが人数も多いし楽しめると思うけど?
あいつ君の彼氏? 顔はまあ、確かに良いみたいだけど弱そうじゃないか。
俺たち君と遊びたいんだよね? 良い思いさせてあげるからさ。あんなの放っておいて俺たちと来いよ。そのほうがあの男も怪我しないですむだろうし…。どうする?」

クックッと嫌な薄笑いを浮かべて優華の耳元に唇を寄せていく様子を見て、体中の血液が一気に沸騰する。

優華は身を捩って暴れているが、力では敵わないのは歴然だ。

薔薇色の頬を涙が伝う。

胸が鷲掴みにされるように痛んだ。


絶対に……護るから


視界が赤く染まるような怒りが心の奥からドロドロと溢れてくる。


怒りが理性の最後の砦を決壊した。


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