短編■ ピアスを外して、声で飾って
幻影
初めてピアスを開けた時のことを、なんとなく考えていた。
「……忘れ物ない?」
そう聞かれて頷いてから、会話は特になかった。
いいや、お互い気を張って疲れていたのかもしれない。
とにかく無言で、二人の間に音は生まれなかった。
真っ赤な夕日は眩しくて、道路の上に色濃い影絵を創る。
学童保育の生徒が帰る時間は、窓の隙間から夕飯の香りが流れている。
もうすぐ彼の弟が帰宅するのだろう。