短編■ ピアスを外して、声で飾って
手を繋ぐのは嫌いだった。
バカップルみたいだから嫌いだった。
けれど、離さないでと思ったのは初めてだった。
手の平から伝わる温かさに幸せを覚えたのは初めてだった。
こんな風に、彼氏の家の周りを二人で歩くことは何度かあった。
それなのに不安だった。
好きなのに不安だった。
隣家の壁や裏道にある公民館、見覚えのある景色だというのに怖いのは何故。
このまま暗闇に溶けるんじゃないかと思うと無性に怖くなった。
だから、迷子にならないようにずっと手を握り締めていた。
置いて行かれたくなかったから、何度も待ってと呟いた。
それさえ、すっかり頭から消えているような。