短編■ ピアスを外して、声で飾って
夕闇の中、当たり前に歩幅を合わせてくれる彼は、いつもよりゆっくりと足を進める。
気を遣われて歩く度に、なにかに怯えているのだと実感する。
したことはないけれど、万引きした時みたいに、カンニングした時みたいに、……なんだか罪人みたいに。
だから初めてピアスを開けた時のことを考えていた。
小心者なので病院で開けた。
あんなに怖かったはずなのに、耳には揺れるピアス。
親に内緒でピアッサーを買い、
お店屋さんが紹介してくれたチラシを持って病院に行った。
病気でもないのに。ドキドキより怖かった。
静かな病院。
個室に通されて、契約書のようなものにサインをしたのは初めてだった。
なんだか大人みたいだなと思った。
ピアスデビューってやつだ。