椿戦記
第一章
東へ
雨に濡れた頬は、髪が張りつき、痩せこけていた。
大地は枯れ、腐り落ちて深い穴をつくり、水面にはところどころに赤い錆びが浮かんでいる。
少女は生きるものの姿を見ることなく、東へ歩き続けていた。
食べるために殺した。
生きるための努力を惜しめば、いつでも朽ち果てることができるほど、孝廉は生のぎりぎりの淵を歩いていた。
時は意味をなくし、すでに孝廉は都を出てどれほどの時を過ごしたのかわからなくなっていた。
孝廉は、遥か遠くの地平線に立ち上る煙を見つけた。
―…人がいる
孝廉は歩くのをやめた。
愛馬の敦慶は泡を吹いて座り込んでしまった。
孝廉は砂を掘って窪みをつくり、火を焚いた。
孝廉は疲れていた。
皮の厚くなった手のひらはとても昔の自分からは想像できないだろう。
そして、今更どうにもらならいこともよくわかっていた。
あの日、あの瞬間、自分の人生が大きく歪んだのを感じた。
それでも孝廉は生きることを望んだのだ。
父親の返り血を全身に浴びたその瞬間にも、孝廉は生きるために次に取るべき最善の道を考えていた。
いつかこうなることはわかっていた。
だから驚くほど冷静でいられた。
孝廉はその罪を知るにはあまりにも幼く、あまりにも聡すぎた。
わずか八つにして、父親を殺すために刃を振るった心は、その聡さ故に無意識下できわめて重い罪の意識を葬り去った。
孝廉は膝を抱えたまま、谷底に落ちるかのような、深い眠りに入っていった。