椿戦記
椿は李漢の背中におぶわされて家に帰ってからのことを、全く覚えていない。
翌朝、寝台に横になって包帯の巻かれた腕を見つめていた。
―生きてる……。
片手に盆を持ち、きつい表情をした李漢がやってきた。
起き上がろうとする椿を片手で制し、李漢は寝台の横に腰かけた。
「気分はどうだ?何か食えるか?」
椿が頷くと、李漢は目元を緩め、椿の頭に手を置いた。
しばらく、椿は頭をなでる李漢にされるがままになっていた。
「すまない…」
最後のほうは消え入りそうに小さな声で、椿にはうまく聞き取ることができなかった。
普段の李漢からは想像もできないほど、彼は打ちのめされていて、弱弱しく見えた。
椿はどうしたらよいものかわからず、小さくごめんなさいと呟いた。
「いいんだ、いや、よくわないが…すまなかったな。俺が悪かったんだ。もっと前から知っていたんだろう?」
布団の端を握りしめ、小刻みに震える李漢の手に触れると、その手が冷たくて、椿は不意に怖くなった。
「死なないで…李漢さん死なない、で…お願いします…置いていかないで…死なないで」
そっと頬に冷たいものが触れた。
それが頬をつたう滴をぬぐってくれる。
「俺は、愚かだ」
椿は首を横に振る。
「道を違え、そのままここまで来てしまった。
俺はお前を一人にして死なないと、誓うことは、できない。
だけどな、お前をおいてきぼりにしたくないと思っている。
これからも昨夜のような夜を、俺は過ごしていくだろう。
……だからきっと、お前を不安にさせ、悲しませるだろう」
ひどく悲しい呟きに、椿は迷って口を開いた。
「あれは……私を、追って、あの国からきたんですか?」
途端、李漢の双眸は大きく見開かれ、慌てたように首を振った。
「違う。お前は関係ないんだ。
人狩だよ。村を襲って人を集めて街に売るんだ」
「なんのためにそんな…」
「内臓を売りさばいたり、使用人にしたり…人身売買は金になるんだろう」
翌朝、寝台に横になって包帯の巻かれた腕を見つめていた。
―生きてる……。
片手に盆を持ち、きつい表情をした李漢がやってきた。
起き上がろうとする椿を片手で制し、李漢は寝台の横に腰かけた。
「気分はどうだ?何か食えるか?」
椿が頷くと、李漢は目元を緩め、椿の頭に手を置いた。
しばらく、椿は頭をなでる李漢にされるがままになっていた。
「すまない…」
最後のほうは消え入りそうに小さな声で、椿にはうまく聞き取ることができなかった。
普段の李漢からは想像もできないほど、彼は打ちのめされていて、弱弱しく見えた。
椿はどうしたらよいものかわからず、小さくごめんなさいと呟いた。
「いいんだ、いや、よくわないが…すまなかったな。俺が悪かったんだ。もっと前から知っていたんだろう?」
布団の端を握りしめ、小刻みに震える李漢の手に触れると、その手が冷たくて、椿は不意に怖くなった。
「死なないで…李漢さん死なない、で…お願いします…置いていかないで…死なないで」
そっと頬に冷たいものが触れた。
それが頬をつたう滴をぬぐってくれる。
「俺は、愚かだ」
椿は首を横に振る。
「道を違え、そのままここまで来てしまった。
俺はお前を一人にして死なないと、誓うことは、できない。
だけどな、お前をおいてきぼりにしたくないと思っている。
これからも昨夜のような夜を、俺は過ごしていくだろう。
……だからきっと、お前を不安にさせ、悲しませるだろう」
ひどく悲しい呟きに、椿は迷って口を開いた。
「あれは……私を、追って、あの国からきたんですか?」
途端、李漢の双眸は大きく見開かれ、慌てたように首を振った。
「違う。お前は関係ないんだ。
人狩だよ。村を襲って人を集めて街に売るんだ」
「なんのためにそんな…」
「内臓を売りさばいたり、使用人にしたり…人身売買は金になるんだろう」