オレンジ色の校舎
その日の授業は上の空だった。ただ覚えていたのは、数回、瀬川くんが女子に呼び出されていたことだけ。
「遥さーん、もう放課後よ?」
麻衣の言葉に、文字を書く手を止めふと時計を見て、もうこんな時間かと気づかされた。
周りのみんなは、部活や帰宅の支度をしていた。もちろん、瀬川くんも。
あたしは俯くことしかできない。鞄の中にある、用意しているチョコを思い出してしまう。
「朱希ー、また明日な!」
「おぅ小林!じゃーなっ」
友達と話ながら部活のエナメルを持った瀬川くんが近くを通った。
「じゃーな、浅井に永納」
瀬川くんは、片手をあげて教室のドアへ向かった。行っちゃう…瀬川くんが部活に行っちゃう。
「…せ、せ…がわくん」
あたしは瀬川くんの背中に向かって名前を呼んでいた。だけど、
「行っちゃったか」
瀬川くんには届かなかった。麻衣が残念そうにあたしを見る。あたしは小さくため息を吐いた。