Door
「私、帰るね。もうここには来ないから、安心して。」

少しぶっきらぼうだったかな?
そう思ったけど思いなおして
何か言いたげな彼を置いて立ちあがった。

『ねぇ、愛子。』

やめて。もう、その声で呼ばないで。
また戻りたくなるような甘い、声。

「うん。なに?」

『愛子さ、そういうとこ強がるよね。
別れるの嫌なら嫌ってもっと言ったらいいのに。』

彼がふっと笑う。私も苦笑いをする。

「今さらさ、そんなこと言ってどうすんの。
言ったところで状況は変わらないでしょ。」

そりゃそうだって言いたげな顔をしている。
やっぱりそうだ。
泣きついてまた戻ってきてくれたらいいのに、
そうならないことくらい、わかってる。

そして彼は私にまた、優しく微笑む。

『上手く言えないけどさ、俺さ、
愛子と付き合えてよかったって思う。
変に意地、張らなくても充分可愛いんだから。
…幸せになってな。』


「ははは。何それ。うん、ありがと。
正樹こそ、ばっかみたいに真っ直ぐなんだから、
幸せにしてあげて。ばいばい。」

私はまた彼に笑いかける。
彼は『駅まで送ろうか』って言ったけれど
やんわり断って彼のマンションを飛び出した。

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