風に揺蕩う物語
異変
ヒクサクがエストール王国に来賓してから1ヶ月の時が流れた。

ヒューゴはいつもの様に町医者の仕事をしながら日々を生きている。

ヒューゴの体は健康そのもので、シャロンは内心安堵する日々を過ごしていたのだが、実の所は少し違っていた。

ハァっハァ・・・

夜寝静まった時間帯にヒューゴは、眠りにつきながらも胸を抑えながら苦しみ、目を覚ましすといった不可思議な事が頻繁に起きる様になった。

目を覚ますと決まって苦しみは治まるのだが、感情が高ぶっている為か再度眠りに着く事が出来ない。体からは蒸気の様な白い煙が立ち昇り、その煙はヒューゴの思うとおりに空中を漂わせる事が出来る。

放っておくとずっと体の周りを漂うその煙は、朝を迎えても消える事無く残り、仕方なく空に向かって放出して体から引き離す。

不思議な日課が増えていた。

だが特別体に変調が起きる訳ではなかった。体は健康そのもので咳や片頭痛などは最近一切起きない。

睡眠不足のはずなのに日中は眠気も一切ない。体が疲れない。

確実にヒューゴの体に変調が起きていた。

そんな日々を過ごしていたヒューゴは、貫かれる様な胸の痛みを覚えて眼を覚ました。今度のはいつものとは違い、目を覚ましても苦しみが消えない。

意識ははっきりとしている。だが死を感じさせるほどの胸の痛みは、人生の中で一番と思わせるほどの苦しみを与えた。

呼吸が…出来ない。

苦しい…こんなに早く……僕は死ぬのか?

ヒューゴは寝台から転がる様に落ち、そのまま足をバタつかせて痛みを紛らわせる様な動きを見せる。ガッガッと吐き出すだけの呼吸を繰り返しながら悶え苦しむ。

眉間の血管は力の入れ過ぎでぽっこりと浮き出ており、目は血走っている。

体からは相も変わらず白い煙が放出されていた。いつもと違うと言えば、その量が普段よりも多いという所だ。
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