風に揺蕩う物語
ヒューゴがいよいよ限界を迎えようとしていたその時だ。

ベランダに繋がる窓ガラスを何者かが叩く音が聞こえる。そちらに視線を送ると闇夜に照らされる何か小さい生き物がそこには居た。

月明りが外を支配しているのでその生き物を完全に見分ける事は出来ない。だがヒューゴは本能の赴くままガラスの所まで歩み寄り、窓を開け放つとその場で崩れ落ちた。

その生き物は羽をバタつかせて飛ぶと、室内に侵入しヒューゴの傍に着地する。

そして口を開いて辺りを支配していた白い煙を吸い込みだした。すごい勢いでそれらの煙を吸い込むと、今度はヒューゴの体から出ている煙も渦巻き状に螺旋を描きながら吸引する。

不思議とヒューゴの体は煙を吸引された事により容体が安定しだし、胸の苦しさが収まっていった。

だがヒューゴは極度の脱力感が体を襲い、見動きが出来ない。

生き物は煙をたらふく吸い込むとトコトコと窓側に歩み寄り、羽をバタつかせるとそのまま窓から出ていき、姿を消してしまった。

顔だけ向けてその生き物の行方を目で追っていたヒューゴは、その生き物の正体に気づいた。

「鷹・・・?」

多少小さい体つきをしていたが間違いなく鷹だった。

ヒューゴはそう確信したのちに、今度は意識を失う。

あの鷹は何者なのだろうか。一つ言えるのは普通の鷹ではないという事だけ。

何はともあれヒューゴの命を救ったのはあの鷹だ。煙の正体も鷹の正体も分からないが、何か重大な事が体に起きている。

それもまた間違いない事だった。

その日の朝、シャロンはヒューゴを起こしに行くと、気が動転するほど驚くことになった。

自分の主人が窓際でうつ伏せの状態で倒れ、身動き一つしないのだから。
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