風に揺蕩う物語
揺すっても声をかけても起きる気配がない。

シャロンは急いでヒューゴの体を担ぎあげ、寝台の上に運ぶとそのまま早馬を出して医者の手配をした。

火事場の馬鹿力とはよく言ったものだ。シャロンのあの細い腕でどうやって長身のヒューゴを担げたのかは不思議だが、何はともあれその時のシャロンにはそれが出来た。

シャオシール家の当主が昏睡状態という知らせを受け、すぐに町中の名医がヒューゴの元を訪れ、ヒューゴを診察しだした。

代わる代わるあらゆる分野の医者が診察をした。

だがヒューゴの昏睡の原因はなにも分からず、医者は皆が頭を傾げるばかり。

このまま目を覚まさないかもしれない。そう診断した医者も現れる。

その言葉を聞いたシャロンはその場に崩れ落ち、茫然自失といった様子だ。

ヒューゴが昏睡したという知らせは当然エストール城に居たリオナスの元にも知らされ、急いで自宅に戻ってきた。

ヒューゴの部屋に行くと、シャロンは肩を落として床に座り込み、数多くの医者は顔を伏せて黙り込んでいる。

この時のリオナスはその状況を見て、最悪の出来事を覚悟した。

一つ深呼吸をすると、その場でしゃがみ込むシャロンの肩に手を置き、片膝をつく。シャロンはその時、初めてリオナスの存在に気づいた。

そしてゆっくりと表情を歪めると、ひと筋の涙を流し、リオナスに深く陳謝した。

「私のせいです。もっとヒューゴ様の体調に気を使っていればこの様な事にはならなかったかもしれません。本当に申し訳ございませんでした」

シャロンは時折声を震わせながらそう言うと、叩頭しだした。リオナスは当然シャロンを責めるつもりはないので、その頭を無理やり上げさせる。

「シャロンの責ではないから頭は下げる必要はない…それに見た感じまだ死が訪れた訳ではないのだろう。何か原因があるはずだ。それが分かればまた結果も変わってこよう」
< 124 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop