風に揺蕩う物語
リオナスは前向きにそう捉え、その場にいた医者に声をかけて行った。

医者が口々に言うのは、何が原因かが分からないとの事。呼吸は落ち着いているのだが、寝ているだけにしては心拍数が異常に低いし、どれだけ声をかけても何の反応も示さない。

体温も低いので、このまま放っておくと免疫力低下で風邪を拗らせ、肺炎にでもなれば命を失う可能性が高い。

現状で出来る事は、体温を高い状態で維持する為に室温を高くする事と、栄養を取らせるための点滴をする。

それだけの様だった。

「状況は分かった。済まないが誰か一人この場に残って、兄上の状態を見ててもらいたい。私も執務があるのでこのまま此処に居続ける訳にはいかないし、シャロンも医術の心得があるのだが…現状少し休ませてあげたい」

自責の念で憔悴しきっているシャロンは、リオナスの申し出を断るのだが、頑としてそれは譲る気がないようで、聞きいれる気配はない。

冷静にその場に居る者達に指示を出し、医者たちは持ち回りでヒューゴの看病に着く事になった。万が一の為にそれなりの医療道具が必要と言う事で、医者たちは一度シャオシール家を離れた。

その間はリオナスがヒューゴの様子を見る事になり、シャロンも今は傍を離れたくないと言う事で、そのまま居座った。

シャロンは寝台のすぐ傍に椅子を置いて、ヒューゴの様子を観察し、リオナスは少し離れた位置でその様子を静観する。

「しかし一体どうしたのだ…原因不明の意識喪失とは滅多に起きる事ではないと思うのだが。兄上は体調が悪かったのか?」

実の所リオナスはヒューゴの体調不良の事は知らなかった。昌霊術の事もシャロン以外のものは誰も知らないのだ。

リオナスの疑問は当然と言える。ディオス亡き今、執務に専念するという理由で騎士を退役したという事になっているのだ。それなりの肩書だけを残して。

「…私にも良くわかりません。なぜこの様な事になったのか…」

シャロンはヒューゴの秘密を語らなかった。約束を違える事は出来ないからだ。

ヒューゴの信頼を裏切る訳にはいかなかった。
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