風に揺蕩う物語
実に律儀な鷹であるとこれまた呑気に考えていると、ドタバタと足音を響かせながら2人の人物がヒューゴの自室に入ってくる。

シャロンと医者だ。医者は入口付近で息を切らせながら両ひざに手を置いて呼吸を整え、シャロンはヒューゴの寝台の傍まで走り寄ると、ヒューゴの手を両手で握り、自分の頬に当てて涙を流す。

ヒューゴはなぜシャロンが涙を流しているのか分からず、少しうろたえる。

「手が温かい…本当に良かった」

「…何がだい?」

一体なにがどうなってこの様な事になっている。ヒューゴは握られている手とシャロンの顔を交互に眺めながらこう思った。

「挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。私はヒューゴ様を診察させていた頂いていた医師でございます。実はヒューゴ様は10日もの間、眠っておられたのです。だからシャロンさんが涙を浮かべるのも仕方ないのですよ」

医者は息が整ったのち、人当たりの良い笑顔でそう答える。

「10日間も?冗談でしょ?」

そう口にするヒューゴも、シャロンの様子を見て少し納得がいった様子だった。冗談でここまで憔悴しきった様子を見せれる訳がないと。

「随分と心配させたみたいだね。ごめんよシャロン…僕はこの通り全然大丈夫だから」

ヒューゴからしてみればいつもの朝を迎えた気分だ。勢い良く寝台から飛び降りると、そのまましゃがみ込んでいるシャロンに笑顔を向ける。

その様子を見てシャロンは驚き、医者は仰天している様子だ。

「お止めくださいヒューゴ様っ。お病気が…」

「僕は全然健康だよ。健康的過ぎて空腹が限界を迎えようとしているぐらいさ」

お腹を押さえながらそう言うと苦笑を浮かべる。その言葉を瞬間を待っていたかの様に、ヒューゴの腹の虫が盛大に演奏を開始し出した。
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