風に揺蕩う物語
だが一度酩酊している者が調子に乗りだすと、そう簡単には収まらないのが酒の怖いところだ。そして精神的に負担が多かった今日に限っては、ヒューゴも例外ではないのが問題だった。

「謙虚なお気持ちを持つのはシャロン様の良いところです。ですがシャロン様は、もう少しご自分に自信をお持ちになってもよろしいのではないのですか?」

「ヒューゴ様…お戯れは大概に」

シャロンの眼に怒りにも似た感情が見え隠れし始めた。容姿を詰られるのなら受け入れられる。どんな小さな仕事の失敗でも、自分が犯したのなら甘んじて責を受けられる。

だが今のヒューゴの発言には我慢がならなかった。

上げ足を取る様なもの言いだけは、ヒューゴにしてもらいたくなかったからだ。

「ごめんシャロン。今のは悪かった…どうやら悪い酒になっているようだ」

流石に自分の犯したバカバカしい発言には、酩酊中のヒューゴも気づいた。ヒューゴは、一度髪の毛をを搔き毟ると、深く深呼吸をしてシャロンの手の上に自分の手を重ねた。

「でもひとつ前の発言だけは訂正する気はないよ。シャロン…君は姫君に勝るとも劣らないぐらい綺麗だ」

今度は笑みを普段の笑みを浮かべながらヒューゴは話す。だがシャロンは納得がいかない様で、得意の長ったらしい持論を展開させる。

「お褒め頂けるのは素直に嬉しいと思います。ですが、やはり私は自分が見栄えの良い姫君と同等に言われるのには疑問を覚えます。ヒューゴ様は領家の姫君から求婚を申し入れられるほどたくさんの姫君と面識がおありでしょう。その方々と比べるのは、吝かではないでしょうか?」

素直に嬉しいと感じながらも、頑固な性格は相も変わらず。性格上の問題とは言え、シャロンは一向に引かなかった。

だが酩酊中のヒューゴもこの時は引く気配を見せなかった。お酒の勢いで、普段は言えないような事も言ってしまう。

「それは違うよ。シャロンは領家の姫君に劣ってはいない。実際俺の下には貴族や豪族の方からシャロンを嫁に欲しいという書簡を頂いているし」

「えっ?」

シャロンにしてみればこの話は初耳であった。寝耳に水と言った具合に驚いた表情を浮かべる。
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