風に揺蕩う物語

「まだ断わりの書簡は出していない。俺が判断していい話ではないし。ただシャロンには言いたくなかった。僕の利己的な理由でね…幻滅した？」

「そんな事ありません。どうか明日中にでもお断わりの書簡をお出しください。私には身分不相応過ぎます」

シャロンは思わず手の上に載せられていたヒューゴの手を握りながら、そう答える。そんなシャロンの様子を持てヒューゴは、少し安心した様な表情を受かべるが、何かに吹っ切れた様に話しだす。

「そんな事はないよ。なんなら一度会って話をしてみてはどうだい？人と人との巡り合わせはそう何度もあるものじゃない…自分の目でその人の人と成りを確認してからでも断わりを入れるのは遅くない」

「ですが……やはり私には出来ません。今のヒューゴ様の元を離れる事など」

「俺の心配はいらないよ…まぁ俺はシャロンに依存しているから、全然説得力はないけどさ。でも俺はシャロンには本当の幸せを手に入れてもらいたいんだよ。今まで隠していた俺が言うのもおかしいけど、やっと決心がついた」

そう言うとヒューゴは、ふらつく体で立ち上がるとシャロンにも立つように言う。シャロンは言われたとおり立ち上がると、ヒューゴの体を支えるように寄り添う。

「俺が不甲斐無いから、シャロンに全てを任せ過ぎていたんだ。あれだけの仕事を任せられれば、恋愛の一つも満足に出来ないだろう…シャロン。君に暇を与える」

シャロンは鈍器で殴られた様な衝撃を受ける。目を見開きながら少し後ろに後ずさった後、すぐにヒューゴの袖を掴みながら懇願しだした。

「ちょっお待ちくださいヒューゴ様。それだけはどうか！」

普段の彼女なら絶対にしないであろう行為だった。だがそんな事を気にしていられるほどの余裕は今のシャロンにはなかった。

だがヒューゴはそんなシャロンの様子を気にもせず、言い放つ。

「もう決めた。シャロン…君に暇を与える。これまでの給金は、明日中に俺が用意する。貴族の方との顔合わせの段取りもしとくから心配するな」

「いや…」

「もう部屋に戻れ。今日はもう酒は飲まないから…書を認める」

自分の服を掴んでいたシャロンの手をヒューゴはどける。だが中空には先ほどと同じ位置にシャロンの手があり、体を震わせながら懇願を込めた目をヒューゴに向けていた。