風に揺蕩う物語
だがヒューゴは、その視線を無視すると、部屋に明かりを灯し、自分の書き物机に座り、便箋を用意してペンを握りだしていた。

シャロンの事などもう完全に視界に入っていない。しばらく書を認めている素振りをしていたヒューゴは、シャロンが静かに自室から退席する音を感じ取ると、握っていたペンを乱暴にインクの壺に差し込む。

これで良いんだ。俺は今まで短慮だった。

今日のセレスティアの様子を見て、自分がどれだけ周りの人間に悲しみを与える存在なのかを自覚したから。

シャロンは良く出来た女性だ。美貌と素養を兼ね備え、長年当家の使用人を務めたというハクも示せる。

そんなシャロンが、あと何年生きられるかはわからない様な当主に束縛されていては、良い縁談も貰えなくなってしまう。

シャロンは自分からは絶対に婚約をしたいとは言わない。なら無理にでも俺が暇を与える必要があったのだ。

ヒューゴは心の中で自分にそう言い聞かせ、シャロンにとってどれが一番良い縁談相手になるかを思案し出した。

「織物を扱う商家からの縁談もあったな。器量の良いシャロンにはこの方も良いかもしれない…それに給金も考えねば。銅貨などは渡せないな。何枚か金貨も織り交ぜて、感謝の気持ちを示さないと」




翌朝ヒューゴは、酷く体調不良を感じながらも目を覚ました。どうやら考え事をしている間に眠りについていたようで、机の上で夜を明かしていた。

喉も以上に乾く。頭痛もかなりのもので、自然と口からうめき声の様な声を出している自分に気づき、己を律した。

「うーん…最悪だ。随分とまだ酒が残っている」

どれぐらいの時間寝ていたのだろうか…。

日の昇り具合を見ても、昼時にはまだ遠い時間だ。だがいつもなら起きている時間なのは間違いないようだ。

外からは馬の嘶く音と、街道を行きかう人の声が部屋まで聞こえてくる。

いつもならこの時間まで寝ているとシャロンが僕を起こしに来るはずなんだが…。

「そうか…怒っているのかもしれない」
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