風に揺蕩う物語
長年屋敷に居るシャロンには、それなりに立派な部屋を与えている。簡易ではあるが、ベランダの様なスペースもある部屋なのだが、シャロンは眠る時以外は使用していなかったのか、ほとんど雑貨を置かなかった。

なんだかんだで久しぶりに見るシャロンの自室に足を踏み入れたヒューゴは、少し疑問を覚える。

「あまりにも物が少ないな。それに…綺麗過ぎる」

綺麗好きなシャロンの部屋が綺麗なのはあたりまえなのだが、それとは少し違う感覚。何かこう…生活臭を何も感じない。

リオナスも同じ疑問を感じているのだろう。怪訝な表情で辺りを見回して居ると、この部屋にもう一人の訪問者が現れた。

「あのヒューゴ様。こんな置き手紙があったのですが」

現れたのは、最近雇ったお手伝いだ。広い屋敷の掃除をする為に、朝になると仕事に来るのだ。

「ちょっと見せて…」

手紙の内容は、なんて事はない文章だった。

食糧の保存状態を詳しく書かれた文章や、薬草の仕入れ先の店やその値段などなど、雑務に関してのメモの様な文章。

横から除き見るように見ていたリオナスは、何やら思案を始めた。

「シャロンの字だな。一体これはどういう事だ?まるで姿を消すための準備みたいだ…」

リオナスの言葉を聞いて得心のいったヒューゴは、驚きの表情を浮かべる。

「まさか…」

「兄上。何か心当たりがあるんですか?」

ヒューゴは言葉に反応したリオナスは、期待を込めた視線をヒューゴに向ける。

ある。ありまくる…。まさかだよ。

「シャロンに暇を与えた」

「はぁ??」

予想だにしていなかったのかリオナスは、唖然とした表情をしている。
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