風に揺蕩う物語
後ろで話を聞いていたお手伝いの女性も同じく唖然としている。

「なんて愚かな事を…それならシャロンがこの場にいなくて当然ではないですか。シャロンは何かやってはいけない事をしてしまったのですか?」

「そんな事してないよ。シャロンは知っての通り良く出来た女性だから。まさに完璧に仕事をこなしていたよ」

「ならどうしてです兄上。暇を与えられたシャロンに行く先などないのは、兄上も知っておいででしょうに…何をお考えなのです」

心底納得のいかないリオナスは、怒りにも似た表情を浮かべながらヒューゴに詰め寄る。

「もちろん知っている。だから暇を与えた」

「理由になってませんよ。嫌がらせにも似た愚行ですよそれは」

「違うっ!」

平素見せないヒューゴの怒鳴り声に、隠れて様子を伺っていた何人かの使用人達は、一様に驚きの表情を浮かべていた。だがリオナスだけは、一向に引く気配もなくこちらも激昂する寸前の表情だ。

「シャロンに良い縁談が来ていたのだ。だがシャロンはあの様な堅物だ。素直に良い話を受けるはずもない…だから暇を与えた」

「そのような…それならそうと説明をすればシャロンも出て行くような事など」

「説明はした。それに縁談が上手く行く様に話を通すとも伝えたし、給金を払うから待つようにも伝えた。それに暇を与えたからと言って、すぐに出て行けと伝えた覚えはない。というよりもそれは常識だ。縁談を滞りなく済ませ、晴れて嫁入りになった時にでも屋敷を出れば良かったのだ…それなのに」

なぜだシャロン。何を意固地になって、出ていく事があろうか。

「分りました。それなら俺は何も言いません。当主である兄上が決めたのなら従うまで…」

リオナスはそう言うと、その場を後にしようとする。難しい表情で考え込むヒューゴに振りかえらずに言葉だけを返した。

「それと俺は今日の夕刻には王族騎士の詰め所に戻ります。あと兄上…シャロンの事を勘違いしておいでではないでしょうか?シャロンはそれほど強い女性ではないと俺は思います」

「何が言いたい…」

「必ずしも良い縁談が幸せに繋がるとは限らない。それだけです…兄上が一番ご存じな事かと存じますが」

そう言うとリオナスはその場から姿を消した。
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