風に揺蕩う物語
そんな事はわかっている。もしも僕がこの病を持っていないのなら、喜んでシャロンを側に置いといたさ。

でもそうではない。それにシャロンは僕の病を知っている。それ故に過剰なまでに僕に尽くし、身を粉にして働いてくれていた。

本当に僕にはこれしか出来る事がなかったんだ。シャロンを正妻として娶っても、すぐに未亡人にしてしまう。それこそ本末転倒というものだ。

良い縁談を紹介し、女性としての幸せを感じさせる事こそが、僕に出来る最大限の感謝なんだよ。

ヒューゴはそのまま何も言わずに、自室に入ると鍵を閉めた。今日は何もする気にならない…それに体調も良くない。

頭痛が酷い。今は取りあえず眠りにつこう。

僕はリオナスがどこかに出かける気配を感じながらも、そのまま眠りについた。

それからの日々は、僕にとってまさに最悪な日々だった。

使用人は、不機嫌な僕を腫れ物を扱うように接し、極力癇に障らないように努めているのが逆に神経を逆なでた。表面上は冷静を装うのだが、どうしても煮え切らない気分になる。

自分の病院では、患者の書類管理などをシャロンに全て任していた事が災いし、忙しなく雑務をこなす羽目になった。シャロンが分かりやすく書類を分けてくれていたのに、3、4日もすると、執務室の机は書類でぐちゃぐちゃになってしまう。

万能薬作りも全然捗らない。薬草の調合は意外にも神経をすり減らす作業で、すぐに変頭痛を起こす僕には一人で全てを賄うのはかなりの労力だった。

そして何といっても料理。シャロンの料理はあんなに美味だったと思い知らされた。自分では味にうるさいとは少しも思っていなかったのだが、新しく雇った料理人の料理は、どうにもしっくりこなかった。

同じ料理でも味付けに個人差が出る。新しい料理人も色鮮やかな料理を作るのだが、それでも味付けに不満が出る。

自然とため息が多くなり、以前の様な日々を懐かしく思う自分を感じては己を律する日々を送っていた。
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