風に揺蕩う物語
シャロンが居なくなって八日が過ぎた頃だ。夕刻頃、ヒューゴの下に再度セレスティアから書簡が届いた。

どうやらヒクサクが10日後にエストール城に来るとの事で、その宴へヒューゴも招待したいようだ。

だがヒューゴは、最近気分が優れない日々を送っている。セレスティアもヒューゴの病を知り、気にかけての誘いだろうが、ヒューゴは断わりの書簡を出そうと考えていた。

今は自分の仕事で手一杯だ。一介の貴族が王族の誘いを断るなどよほどの用事がない場合は、あってはならない事なのだが、体調が優れないと言えば、セレスティアも納得せざる負えない。

そんな事を考えながら書簡を読んでいると、忙しなくヒューゴの自室をノックする音が聞こえてきた。行儀はよろしくないが、よほどの事なのだろうと思い、部屋の外に出ると、使用人の一人が息を絶え絶えに思いもよらない言葉を述べた。

「シャロンさんがお見えになりました…」

いまなんと…。

考えるよりも早く僕は、急ぎ足で玄関の方に向かった。そして屋敷を出て、庭先に出ると、そこには久しく見なかったシャロンの姿と何故か剣を携えた剣士が2人居た。

久しく見ない使用人服じゃないシャロンの姿。普段纏め上げている瑠璃色の髪の毛は、根元を軽く紐で縛り、左肩から胸元に下げられている。服装は、若い女性が着る胸元が軽く開いた上品な薄い茶色のワンピースに、大きめの白いストールを巻いた上品な出で立ちだ。

見慣れない姿に少し戸惑いはしたが、確かに目の前に居るのはシャロンだった。視線を下げ、俯いた状態で口を固く閉じている。

2人の剣士はヒューゴに敬礼をすると、門の外に置いていた馬に騎乗し、その場を後にした。ヒューゴは取りあえず先ほどの二人の剣士は置いといて、目の前にいるシャロンに視線を送る。

「やぁ…」

適切な言葉が思い浮かばない。普段なら当たり障りのない言葉が思い浮かぶのだが、ヒューゴは何も浮かばずただ声をかけてしまう。

すると俯いていた視線を上げ、シャロンはなぜか辺りを見回す。そして一言ヒューゴに声をかけた。

「あの…リオナス様はどちらに」

思いもよらず第一声がリオナスの名前で少し戸惑ったヒューゴだったが、色々考えを巡らせながらも頭を傾げる。
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