風に揺蕩う物語
アスラとムーアは、声を潜めながら密談を交わしている…つもりなのだろうか。

一語一句全て聞こえている。

もしかしてこの状況を楽しんでいるのか?

だとしたらこの二人は、この先生きていく事が出来ないだろう。なぜならギルバート殿のこめかみが脈動を打っているからだ。

「…はぁ。お前らだけは本当にワシの思い通りに育ってくれんのぉ。心底疲れるわい」

ギルバートは悪鬼の表情を和らげ、溜息をついてみせる。その様子を見たアスラとムーアは、したり顔で悪い顔をして見せた。

本当にこの二人は、騎士道を超越した何かを悟っているのかもしれない。

常識の枠を超えた一線を越え、死線を搔い潜って見せたのだ。それも無傷で…。

「ヒューゴ様」

シャロンが僕の耳元で小さく僕の名前を呼ぶ。これが元来の密談で交わすべき声量である。

「私はあの御二方をお手本になさらない事を強く勧めます」

どうやらシャロンは僕の戸惑いを察していたようだ。ようはあんな風にはなるなと苦言を言っているのだ。

「なれると思うかい?」

「…余計な心配でした」

あれは一種の才能だ。特異な技術であり、習得しようとして出来るものではない。

…それに僕は今の騎士道で満足しているし。

シャロンにも嫌われたくない。

そんな事をしていると、式典会場の中で動きがあった。どうやら式典が始まるようだ。

僕たちは会話を止め、静かに佇む様に会場に視線を送った。

いよいよ始まるのだ。リオナスの死闘が。
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