風に揺蕩う物語
式典の最初はランディス国王陛下の御話だ。

ヒクサク様が席から立ち上がると、会場の中央まで歩み寄り、誠意を見せるように姿勢を正して御話を聞いている。

会場に居る皆も武官の礼と文官の礼をしながら御話を聞く。シャロンは来賓の女性という事で、手の甲の上に手のひらを重ねて礼儀よく御話を聞く。

ランディス国王の御話が終わると、ヒクサクがエストール王国との友好の証としてグレイス共和国から持ち込んだ宝飾品の贈呈式が始まる。それを同じ立場上に位置するヴェルハルトが受け取る。

それが終わるとランディス国王自らがヒクサクの下に歩み寄り、権威の高い者に送る品である緑陽石(リョクヨウセキ)が施された首飾りを渡す儀式が始まる。

緑陽石とはエストール王国の国有財産とも言われる宝石で、長い年月を経て光を吸収した石が変化して出来た鉱物で、希少価値の高い代物だ。

ヒクサクはその場で片ひざを付き頭を下げると、ランディス国王がヒクサクの首に首飾りを付けてみせる。

ヒクサクは頭を下げたまま感謝の言葉を述べると、ランディス国王は抑揚に頷き、自分の席に戻る。

その後は楽器の演奏や歌などが披露され、式典の出し物が次々と披露されていった。そしてそれらの出し物が終わると、最後にこの会場に集まっている者全てが待ち焦がれていた出し物がなされることになる。

他国の騎士同士による試合。国力を見せる為の試技とまでは言わないが、会場に居る者全てがこの試合をただの娯楽として見てはいないだろう。

リオナスが本当に地位に合うだけの実力を持っているのか。

それを見たいと考えている者も多いはずだった。会場に漂う緊張感がそれをひしひしと伝えている。

少しの間、静寂が訪れると、左右の通路から今回の主役とも言える二人が姿を粟原した。リオナスは宮殿の前で会った時の甲冑姿ではなく、布地で出来た服装に着替えていた。

小手や膝当てを付けてはいるものの、動きやすさを重視した軽装であるのは見てとれる。会場からは困惑の声が聞こえてくるものの、どれはリオナスだけが原因ではない。

対するセヴィル将軍も似たような軽装の服装で姿を現したのだ。動きやすさを重視している。
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