恋人は小学生!?
第一章
まさか、高校二年にもなって、白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるだなんてことは、思ってない。断じて。
そもそもわたし、お姫様じゃないし。
でも……
「背が高くて年上で、優しくて頭が良くて超っカッコイイ人と付き合いたいなー」
放課後の教室で、うっとりとしながらそう言うと、目の前で話を聞いてくれていた友だちの優子がはあ、とため息を吐いた。
優子とわたしは席が前後で、いつもわたしの机を使って、一緒にお弁当を食べたりお喋りしたりする。
今は教室にわたしと優子しか居ない。皆は帰宅したか、部活に励んでいるんだろう。
「アンタは理想が高過ぎ。そんなひと、漫画のキャラクターくらいしか居ないでしょ?」
「あっ、それもいいね。漫画の世界に行っちゃおっかな?」
にこにこと笑いながら言うわたしに、優子は何度目かわからないため息をこぼす。
でも、そうやって呆れながらも、ちゃんと話を聞いてくれる優子はすごく優しくていい子。優子とは中学一年のときに同じクラスで出会って、それからクラスが離れたりしながらも交遊は続き、今ではお互い“親友”と呼べるような仲になった。
「ねえ伊織?アンタ可愛いんだから、その高い理想を捨てればすぐに彼氏なんで出来るよ?」
確かに、わたしは小さい頃から『可愛い』と評されることが多かった。れっきとした日本人だけど、栗色で少しウェーブの掛かった地毛の髪に、同じ色の瞳の目はぱっちりとした二重。お人形みたい、だなんて言うひともいる。
でも、そんなの関係ない。だってわたし……
急に口をつぐむわたしに、心配そうに顔を覗き込んでくる優子。
「どうかした?」
わたしは困ったように眉根を寄せて、暫く机の年輪を見つめていたけど、ふっと一瞬目をつむり、それから勢いよく立ち上がって笑顔をつくろった。
「ごめん、もう時間、バイトに行かなきゃ!バイバイ優子!また明日ー!」
「あ、伊織……」
後ろで優子がなにか言いかけてたけど、わたしはただ、廊下を走り抜けた…………
「コラ!高木伊織!廊下は走るな!」
「はっ、はいぃ……」
……教師に怒られるまでの、短い間だけだったケド。