好きです。
カメラに写った藤原くんの笑顔に、あたしは突き動かされた。

カメラを首からぶら下げて、あたしは部室を飛び出した。

廊下を走って階段を駆け下り、靴を履き替えて慌ただしく地面を蹴った。

自分でもびっくりするくらい、早く走って急いだ。

駆け込むように、あたしは裏庭へ行った。

走って息が上がっていた。

あたしは肩で息をしながら、木立のそばをじっと見つめた。

ぜーぜーと荒く呼吸するのに気づいたのか、見つめていた木立のそばにいるものが動いた。

「武藤? 走ってきたの?」

それは藤原くんと、白い子猫のリィだ。

藤原くんはリィを抱えると立ち上がった。

あたしは上がった息をゆっくりと整え、立ったままの藤原くんを見て言った。

「お願いがあるの」

息を整えたけど、苦しかった。

「何?」

指先でリィの首をなでながら、藤原くんはあたしを見た。

「藤原くんを撮らせて下さい」

礼儀正しく、あたしは深々と頭を下げてお願いした。

けれど、返事はなかった。

顔を上げるタイミングを失って、あたしは頭を下げたまま、ピタッと止まっていた。


藤原くんは、何も言ってくれない。

それって……ダメ? 無理? できないってこと?

返事がないから、そろそろ顔を上げようと思ったそのとき、

「……いいよ」

藤原くんは言った。

えっ……?

あたしは恐る恐る、顔を上げた。

藤原くんはちょっと照れたような、はにかんだ顔で、目をそらしながら言った。

「武藤が撮りたいなら、撮ってもいいよ」

少しばかり、藤原くんの頬が赤らんでいるような気がした。

断られると思っていたから、OKの返事は嬉しかった。

「ありがとう!」

あたしは笑顔でお礼を言った。

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