好きです。
残念だわ。

カメラを見ながら思った。

せっかく、無理を言ってカメラをもらったのに、満足に写真も撮れないじゃ、宝の持ち腐れ。

せめて、一枚くらいいい写真を撮りたい。



このままこうしていてもダメだ。とりあえず、何かを撮りに行こう。



そう決めると、あたしは部室を出て学校の裏庭へ向かった。


裏庭といっても、花壇。それから校舎を囲むようにある木立しかない。

鳥の鳴き声はしても、姿を見ることはほとんどなかった。

ファインダーをのぞき込み、あたしは手当たりしだい写真を撮り始めた。

花壇に植えられている黄色とオレンジのパンジー。それから、赤のチューリップ。

カメラの中に映るものを、角度と距離を変えながら、熱心におさめていく。

花壇から離れて、後ろの木立にレンズを向けると、不意に違うものが映り込んだ。

それは生徒だった。

男子だ。

あたしはそのまま、そのコをレンズ越しに見ていた。

短く切られた少し茶色がかった髪。差し込む光に、髪の毛がもっと明るい茶色に見えた。

すらりと背の高いその男の子を、あたしは知っていた。

クラスメイトの藤原玲二だ。

顔が良くて、勉強もできる。そして、女子からもモテていた。

でも、藤原くんは無口で、話しているのを見かけたことがなかった。

クラスメイトだけど、話したことは一度もない。

ファインダーの中で、藤原くんが、にこっと笑った。


えっ?


でも、あたしを見えいるわけじゃない。

笑った理由は知らないけど、あたしはその表情に思わずシャッターを切ってしまった。
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