狂ってしまった彼と彼女の話
月夜の鈍色
世界がぐらりと揺れて、体が後ろに傾いた。
固い地面に倒れこむと、目の前に満点の空が広がった。
あぁ今夜は空が綺麗だな。
視界の端に、かたかたと震える鈍い銀色があった。
その剣先からは、ぱたぱたと赤い雫が滴っている。
彼女が、震えているのだろうか。
彼女が泣いているのか、笑っているのか
こちらに背を向けて立つ彼女からはわからない。
息が苦しい。
力の入らない手を無理矢理持ち上げて腹部を触ると
ぬめりとした独特の感触があった。
目の前が霞んで、夜空の中で一際大きく輝いている月が
幾重にも重なって見える。
それを眺めていたら、どうにも目を開けていられないほど眠くなって
俺はそのまま目を閉じた。
直前、彼女がこちらを振り返った。
月の光を受けて危ういほど美しく輝く彼女の顔は…。
→赦し